横尾本谷・奥又白池
9/29日(木) 分倍河原駅5:40⇒沢渡⇒上高地→横尾山荘(泊)
9/30日(金) 横尾山荘4:10→本谷橋5:15/5:30→本谷出合6:20→二股7:05→黄金平8:25→横尾尾根のコル10:35/11:00→天狗原11:30/11:40→槍沢ロッヂ13:55/14:15→横尾山荘15:25(泊)
10/1(土) 横尾山荘6:00→(横尾仮設道)→奥又白登山口6:35→中畠新道分岐7:25/7:30→奥又白池9:30/10:20→中畠新道分岐11:45→新村橋12:35→上高地15:00⇒沢渡⇒入浴、帰京
この山域を一通り歩いた人なら、横尾本谷はぜひ経験したいルートだろう。横尾山荘を朝4時に出発し再び横尾に泊まるという計画は余裕たっぷりと思っていたが、(途中幾度も絶景をたっぷり楽しんだこともあり)結局11時間半の行程。歩き甲斐もあり大変印象的な山行となった。当日の早朝、本谷橋で図ったように目が利くようになり(実際リーダーが図ったのだが)、ヘッデンを消す。沢へ下りると進む先のまだ紫の空に北穂がそびえ、絶頂に北穂高小屋の灯りが見える。左岸をルートに取る。涸沢と分かれる出合まで距離はさほどないのだが、ダケカンバの低い枝や大岩などに時間を取られ、いきなり洗礼を受けた気分。大きな四角い岩まで来ると、そこが出合の目印でいよいよ横尾本谷に入る。引き続き左岸を進む。
全員が登山靴で沢装備もなし。流れの中にある赤い苔を生やした岩はよく滑る。沢靴だったら果たしてこんなに滑ぶだろうかと考えながら進む。横尾本谷は緩急を繰り返し、僕らは大きな岩を乗り越えたりヘツったり巻いたりして、これがバリエーションの楽しみなのだと自分に言い聞かせながら、それでも喜んで目の前の仕事をこなしていく。ペースは順調。いよいよ右俣と左俣の分かれ目まで来る。左へ進めば大キレット。これはいつかのお楽しみに取っておいて、右俣を進む。ちなみに、横尾山荘の受け付けで右俣のお客さんと呼ばれ、なるほどここでは単にミギマタと言うのかと妙に納得した。
周辺の景観に大きな変化を生じたのは、その右俣の水量が乏しくなり始め、小滝を乗越しった時だ。だしぬけに、晴天に輝くように美しい広大なカールが目に飛び込んできたのだ。何年も前のことだが笠新道の終盤、笠ヶ岳のカールが突然現れたとき腰を抜かすほど驚いた。それ以来、景観の激変に僕は弱い。おおーっと叫び声を挙げた。後ろを振り返れば、歩いてきたルートの向こうに前穂北尾根がギザギザの姿をさらしている。いつか行った屏風の頭も見える。この辺一帯は紅葉シーズンに訪れる登山者が多いためか黄金平と呼ばれ、テント泊をする人もいる。これから高度を上げるとどんな景色が待っているのか、楽しみになる。
ここからはブッシュとゴーロの、けっして歩きやすいとは言えない足場が続く。稜線までは2時間の予定。さしあたっては、帯のように行く手を遮るモレーン(氷河の末端に残された岩石群)を越えていくのだが、その上にダケカンバやナナカマドが密生。少しでも人の通れる空間を求めていったん左手にルートを取って突破する。そこを越えると景観はいっそうダイナミックになる。記念写真をたくさん撮り、休憩もたびたびしながらゆっくりと稜線へ向かった。最後はガレ場の急登。ようやく乗っ越すと、前方にはこれまた突然に槍ヶ岳が。再び、おおーっと叫ぶ。ゆっくり行動食を取ったり短時間まどろんだりして、一同すっかり元気を取り戻してから天狗原へと下りた。
翌日は、奥又白池に寄った。寄ると言っても、梓川とは1000mほどの標高差があり、休憩を入れて6時間ほどの登山になる。井上靖の『氷壁』にも登場するクライマーの聖地?に一度は行ってみたいと思っていたが、絶好の機会が訪れた形。松高ルンゼに並行する中畠新道は半端ない急登。時折林が途切れると、右手に前穂北尾根が昨日と反対側の姿を間近に見せる。ルンゼの上部からトラバース気味に進むと、ここでも奥又白池は突然姿を現した。ほーっと声が漏れる。前穂東壁を映す池の周りは本当に静かだった。前穂の1峰から6峰までもよく観察できる。前穂の大きさを見直さざるを得なかった。奥又白池からの下りではクライマーだけでなく、テント泊目的のパーティが複数登ってきた。テント泊もいいだろうなと思った。一連の計画を立ててくれた比留間さん、奥又を提案してくれた森さん、ありがとうございました。