光岳
2020年9月19日20日
光岳(2591㍍)はハイマツ群生地の南限、山名の由来となった石灰岩の光岩などで知られる。百名山であることとその個性的な山名が記憶に残る。南アルプスの南に位置し山深い印象である。百名山実行者でもつい残し勝ちな山だと聞いたことがある。今日はこの光岳に登る。
前夜芝沢まで車で入ったが、途中の山道はなかなか遠く、森が覆いがぶさる様な気がする深い闇だった。登り始めてからソロで登る女性と何人か出会ったが、この道を一人来るとは百名山への思いの大変強い女性だと感じる。
明け方前に夕立のような雨が何度か激しく車の屋根を打った。明日の天候はどうだろうと気になったが、夜が明けると雨はどうにか上がり、時折梢から水滴が落ちてくるぐらいだった。準備を整え歩き出す。まだ夜は明けきっていない。易老渡の登山口まで1時間半の林道歩きである。歩き始めてすぐ車両歩行者とも通行止めの看板がかかったゲートがある。脇をすり抜けていくが、少し行くと大型のクレーンが止まっており崩れた林道は15㍍ほど上である。かなりの長さが崩れたようだ。砂と石を踏んで林道へ上がる。あちこちで岩が林道へ崩れ落ちている。土砂崩れを止めるための鉄製のネットが大きく膨らんでいる。ネットを潜って回り込みザックを外して這い出る。この林道が通行止めなのは無理からぬことだ。
易老渡の赤錆びた橋を渡り小休止の後歩き出す。この山道は易老岳に出るまで緩急はあるものの登り一本である。コースタイムで5時間半、私たちは何時間かかるだろうか。昨夜は4時間の仮眠、途中の飲み水と一泊の水が心配なので私でさえ3.5㍑、Sリーダーは5㍑以上を背負っている。荷もなかなか重いのである。
ジグザグの樹林帯の道、涸れ沢の急登を経て易老岳へ出る。厚い雲が切れて時折日が差すようになってきているが展望がほとんどない。私たちのあとからユーチューブをやっているという若者がやってきたが「5時間半がんばってきたのにご褒美がこれ」とビデオを撮りながらあたりを撮影していた。口に出さないが同感である
昼食を摂って休憩を終え今夜の泊まり、光小屋まで160分の道を行こうとするとSリーダーの足が血だらけ。どうしたのかと傷口を見ると血が止まらずとくとくと流れ出ており傷口は丸、ヒルである。手当をしているとあとから登ってきた女性登山者が「ここはヒルに注意とありました。」と教えてくれた。この大きな傷口は山ヒルだ。大きなバンドエイドを張り、気を取り直して出発する。
いくつかのアップダウンを繰り返して、突然視界が開けた。振り返ると聖岳が全貌を見せてくれている。すっと尖った山頂から中腹までを見せて実に姿の良い山である。登頂の経験のあるリーダーの写真を聖岳をバックに撮る。ここからは今までの苦しい道と違い極楽のような美しい景色と道である。池とう、平らな木道、ハイマツ、傍らを流れる細く美しい沢、今までの無愛想な道とのギャップが大きい。
私たちは小屋近くの水場が涸れていると聞いて水を背負って来たのだがこの美しい沢が水場だった。空いた容器に水を汲む。とても冷たい。南アルプスの天然水である。水がたっぷり汲めると心も豊かになる。この山行ではもう水はけちらなくて良い。写真を撮りながら行くと正面に瀟洒な木造の建物が2棟現れた。これが光小屋である。県営の小屋で今シーズンは無料で開放されている。よく整地されたテント場がいくつかある。中も新築のようにきれいでしかも宿泊者が少ないので十分過ぎるディスタンスを取っている。昨夜4時間の睡眠の不足を補って今夜はゆっくり眠れそうである。
荷を小屋において、光岳山頂を踏みに行く。ここも展望は望めない。
たっぷりと寝て翌日は朝から雨となった。しかし、良い所は昨日全て見せてもらった。途中水を汲んでいると、これから聖岳向かうというご夫婦と出会った。雨の中、止むと良いのだが。
光岳、極楽のように美しい1割と、無愛想な9割の山旅、南アルプスらしい山でした。ハプニングもあり実に楽しい山行でした。Sリーダーありがとうございました。