・1978年創設
・東京都山岳連盟所属
・例会毎月第1水曜日

槍ヶ岳・北鎌尾根

2017/09/09(土)〜09/11(月)
報告者
瀬川
山域
北アルプス
ジャンル
バリエーション
天候
9日晴れ後曇り、10日晴れ、11日曇り
行程

8日(金)=移動日=分倍河原19:00集合・沢渡泊
9日(土) 沢渡5:20・・・上高地5:50~大曲12:20~水俣乗越14:00~北鎌沢出合16:00(ツェルト泊)
10日(日) 北鎌沢出合5:20~北鎌のコル8:00~独標トラバース起点10:30~北鎌平14:15~槍ヶ岳穂先15:25~槍ヶ岳山荘15:50(泊)
11日(月) 槍ヶ岳山荘5:45~上高地12:25

報告

告白しますが登頂の瞬間、なにかがこみ上げてくるのを抑えられなかった。やったあ!と叫ぼうとして声にならなかった。それまでの緊張と渇きですっかりガラガラ声になってしまったのだが、それだけではない。声を絞りだそうとしてもこみ上げてくるものが邪魔をする。ここまでずっと緊張が続いた。けれど実に楽しい道中だった。周囲をはばからず達成感と満足感に浸る。山頂で拍手をしてくれた他の登山者に、「2番目の人、男泣きしてたみたい」などと後で言われていなければよいのだが。

初日から天気の心配はなかった。上高地から沢沿いの美しい風景に見とれながら歩いた。水俣乗越から天上沢への予想以上の急降下は、いよいよ未知の領域へ足を踏み入れるのだと少々ドキドキする。翌日の始まりは北鎌沢の登り。右俣は随所に伏流があり、口を付けると実にうまい。途中藪こぎの場面もあったり、稜線ではハイマツを縫って進んだりと、バリエーションの楽しさを素直に味わえる。緊張のシーンが始まるのは独標のトラバースからだ。その後は急峻なピーク、岩峰がいくつも待ち受ける。

ブログによく書かれているトラバース途中の逆コの字の通過やチムニー登攀。これは、実際には長い道中のマイルストーンというかアクセントでもあり、障害というよりもお楽しみとしての出し物だったように感じる。むしろ、それ以外に慎重を要するところがたくさんある。そのあたりの事実はブログでも書きようがないし行ってみないことには絶対に分からない。

ルートファインディング(ルーファイ)が、トラバースが、チムニーがと事前にいろいろインプットされた。でも、このルートを踏破するにはメンバーの1にも2にも体力(その後に登攀力)だろう。そのうえでリーダーの存在とチームワーク。天候はもちろん。今回はすべてに恵まれたはずだが、実を言うと自分の登攀経験の少なさは気がかりでもあった。前夜、北鎌沢出合の狭いツェルトの中で、まだ見ぬ最後のチムニーで自分が登れずに進めなくなる様を想像したりした。ツェルトやシュラフ、マットなど不要な一切を捨てて荷を軽くすべきか、などとお馬鹿なことも考えた。振り返ると笑ってしまう。ふたを開けてみたら心配していたほどには足を引っ張らずに登頂できたのだから、(自分を客観視すると)困難に当たったときの人の可能性って面白いなと思う。事前打ち合わせでリーダーの「ロープを持ってかないぞ」宣言に甘えを絶たれ、ついにやるっきゃないと覚悟を決め、すると苦手だったトラバースがなんだか楽しくなり、最後のチムニーも結構楽しんでこなしていた。ノーロープという「素晴らしい」環境、あるいは好判断のもとで北鎌の10時間の間に成長させてもらったように感じた。

西穂・奥穂と比べると局面ごとの難易度は大きくは変わらないのではないか。ただ、西穂・奥穂のような明確なホールド、ステップは少なかった。浮き石も非常に多い。手をかける位置を試行錯誤する場面が多かったと思う。やはりこちらの方が難しいかもしれない。それに、ゴジラの背をどちらにどう越えると次にどのような場面へと展開するのか、千丈沢に落ち込みそうなどこまで続くか分からないザレ場、ここを下降して巻いて行ったら果たして稜線に戻れるのか、先の予想が付かない大小の応用問題が目まぐるしく現れる。基本的には「独標後は稜線通し」と言われるが現実は簡単ではない。岩峰に取り付く楽しさの半面、知能クイズと緊張の連続が体力をすり減らして結構こたえる。荷も重い。道のりの長さと累積のアップダウンは西穂・奥穂のほうが数字上で大きいはずだが、北鎌尾根のほうが疲労を悩ましく感じたように思う。

行きつ戻りつの体力と時間の消耗が最小限で済んだのは、リーダーの総合的ルーファイテクニックのお陰である。もう本当に。私は2番手でルーファイとはこういうものかと目を見張ることが幾度もあった。それとチームワーク。前後を歩くメンバーには助けられた。先頭のHTYさんは気づきにくいホールドを助言してくれ、HRMさんにはザックの結び直しからグローブの置き忘れまで世話を焼かせてしまった。とにかく限られた時間内に踏破しなければならないわけで、ありがたいメンバーに感謝しつつも、私はスピード面で体力の重要性を痛感していた。夏の雨で計画が二度流れたが、個人的にその間にもっと体力トレーニングをしておくべきだったと反省。北鎌平を休まずに通過し、そのまま登頂したのだが、途中のガレ場の登りが一番キツかった。だがその後、岩に取り付いて山頂への登りに入ると楽しさが沸き上がるのだから不思議だ。あのワクワク感はクセになりそう。

前日の水俣乗越から出合への移動中に嫌な場面に遭遇した。左手、独標と北鎌平の間だろうか、稜線の少し下でヘリがホバリングしていたのだ。明らかに遭難者の救助の場面だった。その時は荷物のような物体をぶら下げてはいなかったので、良かったねと皆で言い合ったのだが。。。気の毒な事態だったことを後で知る。

・技術・体力・体調について、自分で万全の準備をする。
・ふさわしい装備を用意し、使いこなしておく。
・手を尽くしてリーダーを見つける?
・声に出して注意喚起や助言をしてくれるメンバー。
・天候。
・当日は前向きに楽しむ。

攻略法を列挙すると、当たり前のことばかり。
計画を笑顔で成功に導いてくれたリーダーと同行メンバー、そして遭対当番の皆さんに感謝します。

ババ平テン場にて最初の集合写真
水俣乗越からガラ場・ザレ場の急斜面を一気に下る
北鎌沢出合、しばしの優雅な時間
翌朝、北鎌沢の右俣を登る
北鎌のコルまであと少し
独標、天狗の腰掛が見えてきた。まだ余裕の笑顔
独標のトラバース、慎重に通過する
トラバースの終盤に最初のチムニー
独標を過ぎると鑓が姿を見せた
長い稜線の後半、こんな登りも足にこたえる
北鎌平への最後のピークP15、ロープを出す先行者
北鎌平から長いガラ場が待ち受ける
頂上直下のチムニーを登るHRMさん
山頂の登山客が見えてきた。疲れが吹き飛ぶ
登頂!祠に手を掛けるHTYさん
お疲れ様でした!