富士山(冬期)
6日 佐藤小屋0215--0520八合目0530--0730佐藤小屋
5日。馬返しから佐藤小屋へ。この日は時間があるのでゆっくりのんびり登った。
佐藤小屋は私のいちばん好きな小屋になった。ビールのつまみによっちゃんイカ・バタピーなどの無料提供、おやつにデコポン、食べきれないほどの夕食、ちょっと煙たい蒔ストーブ、トイレは外だが暖房付きで清潔、以前民放で放映された佐藤小屋DVDの強制視聴・・・。なんと翌日は帰ってきたらお稲荷さんまでこしらえてくれた。山ガールが喜ぶ燕山荘や黒百合とはひと味違う庶民的な温かい小屋(夏期は混むので冬季限定)。佐藤さんありがとうございました!
その日は、8年茅ヶ崎に住んでいるのに日本語全然話せないオーストラリア人のダリー(リは舌を丸めて)と、デナリにソロで登ったというパタゴニア社員(テント泊)と、佐藤小屋の主人の佐藤さんとで話が盛り上がった。翌日は昼から雨だろうという佐藤さんの予想で、富士山登頂組5人は早出に切り替える。
6日。01:30起き。パタゴニアさんは後から追いかけるとのことで、02:15ダリーを含めた4人パーティでスタート。気温は低くはない。新月と星が綺麗だ。
登山道は数日前の雪崩で荒れているため、小屋の右手を上がって行く。樹林帯というには木は少なくそれもあっという間に終わった。ここからは吹きさらしの雪面が延々と続く。さて道探し。道に見えるライン・ブル道・本当の道、を間違わずに選択しなければならない。師匠はヘッ電の灯りを頼りに時間をかけて選び、登り始めた(硬い雪なのでトレースは見つけようもない)。
九十九折を左に右に黙々と登る。暑い・・気温が高いのだ。何度かレストを入れながら上がって行くと風も強く気温も下がって来た。強風にあおられた小さな氷の粒が頬を叩く。風が強く吹く瞬間はピッケルを刺し風にもたれかかるように歩かねばならない。砂崩れ止めの壁も見えなくなり、九十九折のストロークが徐々に小さくなってくる。傾斜が増す。7合目付近で師匠から注意があった。
「雪は硬くなくアイゼンがしっかり効きます。ミスをしなければ大丈夫です。でも絶対にミスは許されません。確実に登ってください。」
松木は右足首の曲がる角度が浅いため、無理にフラットフィッティングをすると後方に倒れそうになりバランスが悪く非常に怖い。そのため「左足はなるべくフラット・右足はキックステップ」の変則的なステップを刻む事にした。ここでもし滑って落ちたら何処まで落ちるんだろう・・何も見えない闇の中で不安と恐怖に支配されそうになるが、今はアイゼンを効かせて歩く「一歩」に集中することで平常心を保つだけだ。
そんな緊張感のある登りをしばらく続けて行くと、次々と雪に埋もれた小屋が現れる。何件かの小屋をスルーして8合目付近の小屋を右から上がったときだ(小屋の周りを上がるときは傾斜が急だ)。うしろから「OH!」と大きな声がした。ダリーがスリップした!ピッケルのピックが効いていたのでほんの30cmほど下がっただけらしいが、アイゼンが雪面から外れたショックは大きく、本人は顔面蒼白・・・。
その後小屋の庇をトラバースして、8合目基部に到着。しばし休憩を取っていると、後からスタートしたパタゴニアさんが「いやー、風が強いっすねー。」とにこにこ上がって来た。さすがにペースが速い。
ここの標高はまだ3000mに届かない。ここから800m氷化した雪稜をキックステップで上がるのか・・・出来るのか私???
すると師匠は私の不安を見透かしたかのように言った。
「ここから傾斜が増し、この雪面の状態では女性ふたりの安全が確保できないので、我々はここで明るくなるのを待って下山します。」
心の中で未練と安堵感が交錯する。パタゴニアさんは登頂継続。ダリーはどうする?登るなら一緒にパタゴニアさんに付いて行ってと呉さんが伝えると、「I'm going go down with you」・・・話はまとまり明るくなるのを待って下山開始。
「下りは登りより難しいです。登りと同じように後ろ向きで下りましょう。」
・・・そうなんだよな、嫌だなあ。ところが辺りは明るくなってきて雪面も景色もよく見える。滑ったら何処まで落ちてどの辺で止まるかがわかるとヒジョーに気が楽になった。なるべく止まれるライン(例えば小屋があるとか)で下りれば安心だ。暗闇クライミングとは雲泥の差、しかもキックステップで下りるので足首の硬さが弱点になる事も無い。いやー下山は楽しい♪。スリップしたダリーが少々心配だったが彼もどうにか安全に下りて来た。傾斜が緩むと皆の表情も緩む。写真撮影しながら楽しく佐藤小屋まで歩いた。
小屋で休憩していると、ほどなくパタゴニアさんが下山して来た。「速や!」と声を掛けると、強風で煽られ足を取られそうになったのでこれはヤバいと9合目の先辺りで断念したとの事だった。結局全員仲良く敗退の1日になった。
感想
●渡邉さんの一歩一歩の確実さは真似したいところだが・・・難しい。
●風・寒さは主稜で経験済みなので余裕があったことは幸いだった。
●富士山はアイスクライミング未経験では厳しいと感じた。さあ皆、赤岳アイスキャンディに行こう!
●冬の富士は雄大で美しい。富士山登るなら雪のある時に佐藤小屋。
写真置き場
https://goo.gl/photos/bRukvcsMccJm3UvA6