剱岳南壁・立山・五色ヶ原(追加写真)
[三浦の感想]
今回、念願だった“剱岳山行”。
私としては、一般ルートで登頂出来たら十分に嬉しかったのだが、何故かA氏は、“南壁A2“の岩稜登攀ルートを選択し、計画をたてる。
実際ロープを使っての登攀講習は、何年か前に少しがじった程度の私を連れて行くという。無茶ぶりにもほどがある!!!!
ましてや、ロープの結び方も殆ど忘れている。本当にあの難易度の高い“剱岳”に登攀できるのだろうか、不安でいっぱいだ。
まずは、ロープの結び方を学びなおし、ハーネスの装着など、家で少し練習をする。そして、クライミンググローブも2日前に手に入れる。
そんなこんなで、当日を迎える。早めに出るも、扇沢駅に着くと長蛇の列。バスに乗るのも5時間もかかった。その間も、A氏にロープの結び方を特訓していただき、体に身に付かせる事が出来た。
本番当日、途中から雨がぱらつき、カッパを着込んだり、“平蔵のコル”近くで、左肩の関節が外れかかるなどのアクシデントがあり、不安も一層募るばかりの状況の中、“本当に行くの?”と不安を漏らすもA氏は平然と“行くにきまってるでしょう!”と答える。腹を括って付いて行くしかない。
“南壁A2取付きテラス”では、被り気味の岩壁にA氏は戸惑っていたが、方向を変えながら初めの難所を突破。
A氏の登り方をじっくり観察するが、姿もすぐに見えなくなる。
遠くの方で、“ビレー解除!”との声。手探りでA氏の登ったルートを思い出しながら一歩一歩登り詰める。セカンドとは言っても緊張感は半端ない。全身力が入る。
A氏の顔が見えたときは、ホッ!とした。無我夢中で、その工程を何度か繰り返す。何とか剱岳の山頂が間近に見えて来る頃、緊張していた力が一気に吹き飛んだ。頂上近くでロープをまとめ、その先は私が先頭で登らせてもらった。
一般ルートに合流すると、すかさず私たちが登っていた様子を見ていた外国人に“登頂おめでとうございます!”と声をかけて頂いた。とても嬉しく感じた。
ちょうど5年前の9月に、北鎌尾根から槍ヶ岳に突き上げて登頂した時より更に、技術的にも高度な登攀に成功させていただいたのは、A氏のおかげだと感謝する。
登頂した時は、既に10時近くになっていた。祠の登頂写真を撮るのにも長蛇の列だった。
下山も、登攀にかなり体力を消耗していたためか、既にヘロヘロ状態であった。剱岳からの下山は、アップダウンも多く、最後の最後まで気を許せない。
一服剣から、剣山荘見えたときはやっとこの緊張感から抜け出せる安堵感は半端なかった。
次の日も、山行行程を大幅に変え“五色ケ原”まで行くという。またまた無茶を言うA氏。
この日もまだ昨日の疲れが取れない状況の中ではあったが、別山~真砂岳~立山大汝山~雄山を登り、一の越まで下ると、雷鳥沢から大勢の人が次から次へと登ってくる。この連休は超メジャーな100名山は、何処も人であふれかえっていた。
“一の越”に来るまでは、雷鳥沢まで下山する気満々であったが、この人混みの中に帰るのも嫌だったので、A氏の案に乗った。
“一の越”から“五色が原”までは約4時間半。ここからが、私にとって地獄の始まりだった。
疲れと、標高も高い事もあり、少し歩くだけで息切れし、登りは前に足を踏み出すのもやっとの事。筋肉もかなり疲労している。
ゆっくり、一歩一歩前に足を進めながら、“五色ケ原”を目指した。
疲れていたものの、この稜線はゴロゴロとした石を飛ぶようにして歩いたり、岩場も多く出て来て飽きなかった。
“五色ケ原”まで縦走する人はさすがに少なく、広々とした草原の光景に感動する。テントも張り放題だ。
着いた途端、座り込み動けなくなる。
五色ヶ原山荘は営業していなかったが、幸いビールも購入する事が出来、最高の晩餐を楽しむことができた。
翌日もまだまだ長い道のりは続く。“平の小屋”まで3時間、そこから"黒部ダム"まで4時間以上もかかる。下山とは言え、かなりきつかった。
今回、出だしから大行列のため、バスに乗れるまで5時間。
“南壁A2”登攀からの“剱岳登頂”。
“剱沢キャンプ場”から“五色ケ原”まで10時間の縦走。
“五色が原”から“黒部ダム”まで7時間の下山。等々…。
盛りだくさんの山行で沢山の経験をさせていただき、技術的にも体力的にも、より一層磨きがかかった山行となった。
A氏にもいろいろ助けていただき、本当にありがとうございました。
[浅井の感想]
今回の剱岳登頂ルートについては、私が過去に経験をした本峰南壁A2か源次郎尾根にするか悩みました。源次郎尾根は9月のこの時期になると取り付き点である剱沢と平蔵谷出合の雪の状態が悪く、取り付きに苦労をするという情報があったので見送りました。事実剱岳山頂で出会った源次郎尾根からきたパーティーに状況を尋ねると、取り付き点からのヤブ漕ぎに苦労したそうです。
南壁A2に関しては、42年前は岩場としての難易度は低く、ルート中盤から浮石が多く細かい石を落としながら、ガレ場を登った印象でした。今回は前回ほど浮石が多いと感じませんでした。42年間である程度浮石が落ち切ったのかなと感じました。岩場の難易度については、前回は八峰6峰A、Cフェースを登攀したあとだったので、岩場慣れして難易度が低く感じましたが、今回は久しぶりの岩場だったので、取り付き点からの1ピッチ目のフェースが少々難しく感じました。しかしロープを新調してギャラリーに見守られながらの登頂はロケーションとしては最高だと思いました。誤算は15年前に買ったペツルのハーネスのプラスチック部分(カラビナ・スリング等を掛ける箇所)が経年劣化の為、すべて脱落してしまった事です。コロナ渦で通常の連休にしては若干登山者が少ない感じでしたが、あいかわらず剱岳山頂は登山者の熱気を感じ、たいへん賑わっていました。山の事故は下りが多いので、その事を肝に銘じながら慎重に下山をしました。
剱沢小屋で買ったビール等の空き缶を持ち帰って下さいと言うのは意外でした、通常小屋の荷物はヘリで荷揚げ、荷下ろしをするので、そこで購入した飲料については引き取ってくれるので剱沢小屋はルールを変更したのか、それともコロナ渦の影響なのかわかりません。五色ヶ原山荘は空き缶は水場の横に青いネットがあるので、そこに捨てていて下さいと言われました。
別山については、過去2回は巻き道を行き登頂しませんでしたが、北峰も含めてすばらしいロケーションなので今回登頂したことにたいへん満足しました。
雄山については、前回は頂上をパスしたことが心残りでした。立山連峰の最高地点は大汝山ですが、立山と言えば雄山なので、ここも今回登頂したことにたいへん満足でした。
五色ヶ原については、前回は7月後半に薬師岳からの縦走で高山植物がたいへんきれいでしたが9月になるとほとんど咲いていませんでした。しかし浄土山分岐からザラ峠までの殺伐とした岩やガレの多い道から一転した雰囲気は楽園の雰囲気を醸し出し、すばらしい場所であることを再認識しました。誤算は登攀用具の総重量が4kg程あり、荷物の重量が重かったので膝に負担がかかり、平ノ小屋からダムまでの道がたいへん長く感じた事です。登攀と縦走は別々にしなければならないと痛感しました。
それだけに黒部ダムに到着した時の充実感は半端ではないものを感じました。