身延山
9:00久遠寺→10:00三光堂→11:00法明坊→11:30奥之院思親閣(12:30)→13:00感井坊→15:40高座石→16:15三門
身延山は、鎌倉時代に日蓮が開いた山岳霊場で、日蓮宗総本山・久遠寺の山号でもある。高野山、出羽三山など、今も宿坊集落がある霊山は全国にいくつかあるが、身延山もその1つ。久遠寺宝物館の企画展示を見るため、フィールドワークも兼ねて身延山に登ることにした。
1日目は山内を散策。三門を入り、そそり立つ287段の階段「菩提梯」を登って本堂域に至る。大本堂、祖師堂、仏殿、五重塔などの伽藍が並ぶ、総本山らしい風格ある空間だ。ここから西谷に下って、御廟所へ参拝。日蓮聖人の遺骨が納められたこの墓所は、身延山信仰の核心部ともいえる場所である。
その日は、御廟所に近い宿坊「岸之坊」に宿をとり、明日の登拝に備えることにした。
翌朝4時半を過ぎた頃、太鼓の音と題目を唱える僧侶たちの声が、うねりとなって押し寄せてきた。朝寝はあきらめ、坂を上って大本堂へ。ここで5時半からの朝勤に参加した後、宿で朝食をとり、8時ごろに出発。
大本堂の奥から東の奥之院参道に入り、上へ上へと登る。参道の大半は舗装路と砂利道。だが、門前の喫茶店のマスターから「クマもヒルも出る」と聞いていたので、油断はできない。
参道沿いには、古の上人や有力檀信徒と思しき人々の墓。途中、瘡守稲荷社という美しい社があった。夏の深い緑に赤い鳥居が映え、何とも清々しい。このあたりは「錦の森」と呼ばれたというだけあって、緑が午前中の日差しを受けて照り輝いている。
さらに先へ進むと、「丈六堂」。檜皮葺きのこじんまりとしたお堂の中に、金色に輝く釈迦像が鎮座していた。
杉林を抜け、ようやく山頂に着いた。空は晴れていたが、あいにく雲がかかって、富士山も南アルプスも見えない。奥之院思親閣に参拝し、展望所のベンチで休憩。山頂のレストランで食事をとり、カフェインを補給した後、下山にとりかかった。
下りでは、西の奥之院参道を使う。整備された道ではあるが、左手の斜面には巨岩が露出し、東の参道とはまた違った荒々しさである。道の上には、小さく砕けた岩のかけらが散らばっていた。ちょうど富士山の落石事故のニュースを聞いたばかりなので、緊張しながら先を急ぐ。
天然記念物の「千本杉」の間を抜け、さらに下ると、小ぶりだが美しいお堂に往き合った。「天空の寺 松樹庵」という看板が掲げられ、お坊さんの読経の声が聞こえてくる。トイレを借りて出てきたところで、勤行を終えたばかりのお坊さんに話しかけられた。
このお坊さん、神奈川のバス会社で働いていたが、身延山で体験したある出来事がきっかけで、僧侶になることを決意。脱サラして身延山に入り、得度してこのお堂を任されたのだという。お坊さんの身の上話が面白く、すっかり話し込んでしまった。
高速バスの時間が迫ってきたので、庵を辞し、下山の途についた。